東電、勝ち残りへ大手電力初の分社化 16年春に移行
東京電力は2016年4月、大手電力初の持ち株会社制に移行する。垂直統合型組織で一手に担ってきた発電、送配電、小売りの各事業を分社し、経営の機動性と効率性を高める。同じタイミングで電力ビジネスは本格的な競争時代に入る。原子力発電所事故の賠償などを進めるには安定的に収益をあげ続けなければならない。課されているのは「必勝体制」だ。
「実験的な取り組みだが、他社に先んじることで優位に立ちたい」。18日、都内の本店で開いた記者会見で、広瀬直己社長は身ぶり手ぶりを交えて持ち株会社制の狙いを力説した。新たな東電グループのシンボルマークも発表し、「新生」をアピールしてみせた。
新体制では、福島第1原発の廃炉や原子力発電などを担う事業持ち株会社「東京電力ホールディングス」の傘下に、燃料調達・発電会社、送配電会社、小売会社をぶら下げる。それぞれが戦略を練り、資金調達をし、独立採算で事業を進める。機敏な提携や投資でライバルに先手を打つ。
16年4月には家庭向けを含む電力小売りが全面自由化される。他の電力大手も置かれた状況は同じだが、発電と小売りは本体に残す方向で検討する会社が少なくない。電気を高い値段で卸したい発電会社と安く調達したい小売会社の利害が対立しかねないからだ。「双方を分けて安定供給と両立できるのか」と懸念する電力関係者もいる。
広瀬社長も「どこか(の事業)が好調でどこかが悪いのでは意味がない。全体最適も見ていかねばならない」と、分社後のかじ取りの難しさを認める。それでも小売会社が電気の外部調達を増やしたり、発電会社が選ばれるためにコスト削減をしたりして、互いが競争力を高めて勝ち残る道に賭けた。「実験的」とはそういう意味だ。
東電の各部門は既に動き出している。小売りでは異業種との提携でサービス開発を急ぐ。ソフトバンクと組んで電力と携帯電話とのセット販売を検討するほか、「Ponta(ポンタ)」など共通ポイントの導入を決めた。トヨタ自動車元常務の内川晋氏を顧問に迎え、発電所の検査期間短縮など「カイゼン」によるコスト削減も始めた。
18日の会見では広瀬社長が危機感を吐露する場面があった。「東電の電気料金は正直言って高い。値上げすればお客さんはいなくなる」。収益の抜本改善の鍵となる柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の見通しは依然立っていない。原発事故の賠償や除染費用もどこまで膨らむかも分からない。値上げを避けつつ収益を確保していくのは実は容易なことではない。
会見冒頭で東電は自社の歴史を振り返る映像を流し、前身企業が明治期に電力を社会に普及させたことなどを含めて「挑戦の気風」をアピールしてみせた。戦後長く規制に守られてきた体質を払拭できるのか。持ち株会社制への移行による収益力強化は、失敗ができない挑戦となる。(秦野貫、西岡貴司)
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