離島留学で子供のびのび、島いきいき 新潟・粟島
粟島は周囲23キロ、人口約350人の小さな島。自然に恵まれ、漁業や観光が主な産業だ。島には小中学校が1校ずつあるが、児童・生徒が少ないため同じ校舎で学んでいる。島外の子供を受け入れる「しおかぜ留学」制度が始まって3年目。今では全校27人のうち10人が留学生で、移住した子供も含めると半数以上が島外出身者だ。
「先生、できました」。教室には子供たちの元気な声が飛び交う。少人数のため誰でも臆せずに質問できる。留学生は寮生活が基本で、小中学生が共同生活を送っている。「たまにけんかもするけど、すぐに仲直りします」と話すのは横浜市から来た中学3年の長谷川実紀さん(14)。育った環境が違い個性もそれぞれだが、寮生活の深い関わりの中でみんなが友達になっていく。午後7時から8時までの学習時間は得意な教科を互いに教え合う。とはいえ「親と離れて暮らすのはさみしい」と正直な気持ちを打ち明ける小学生もいる。
離島留学のきっかけはさまざまだ。長谷川さんは前の学校で同級生から悪口を言われたり、無視されたりして不登校になってしまった。粟島に来て1年、「寮生活や島の人たちとかかわって性格が明るくなりました」と自身の変化を話してくれた。
留学生には独自のカリキュラムがあるのも特徴だ。学校から歩いて約15分、牧場で馬の世話や乗馬をするのが生活の一部になっている。朝の餌やりから清掃まで責任を持ってやり遂げる。「世話をさぼれば馬が死んでしまうからね」。大人たちは時に厳しく声を掛ける。牧場は命の大切さを学ぶ「もう一つの学校」だ。馬と触れ合いたくてこの春に兵庫県から来た中学1年の柳谷駿斗君(12)。「馬のことなら何でもできるようになりたい」と、馬の顔を優しくなでた。
財団法人「日本離島センター」(東京・千代田)によると全国で約70の小中学校が離島留学を受け入れているという。粟島浦村が留学制度を取り入れたのは島の子供が減り、学校存続の危機感からだった。いざ募集を始めると「都会では経験できない生活を子供に送らせたい」と問い合わせが全国から相次ぎ、定員オーバーで断るケースも出るほどに。誰もが顔見知りの小さな島は留学生の仲間入りで活気づいた。入学は小学5年から中学3年までで、事前に島を訪れ学校や寮の見学と面接が行われる。
4月8日、毎年恒例の学校行事でワカメの収穫が行われた。島の大人たちから手ほどきを受けながら、大きく育ったワカメの茎の切り取りや乾燥作業を体験した。「ちゃんとやらないと終わらないよ」と島民から優しい声で檄(げき)が飛ぶ。これからの季節、山菜採りや釣り、海水浴も楽しめる。
「必ず島に戻ってくるよ」。これまでに粟島浦小中学校を巣立った子供たちはこう口をそろえる。豊かな自然がいっぱいの粟島で、子供たちがすくすくと成長する。
(大阪写真部 山本博文)