[FT]欧州中央銀行は量的緩和の骨抜きを許すな
量的緩和(QE)は「市場では織り込み済みだ」といわれる。欧州中央銀行(ECB)が22日、国債買い入れに踏み切ると発表することはほぼ確実だ。それは、すでに市場での売買に反映されているとしても、現代の欧州における経済及び金融の歴史に残る大事件となる。あり得なかったことが現実になるからだ。誕生から約16年を経たECBにとって大きな一歩といえる。
だが、これは事態がとてつもなく絶望的だとの証しでもある。今回のQEは予防的でなく、危機の後始末のための手段だ。期待インフレ率が目標値とかけ離れるようになってから長い。物価変動の主要指標はマイナスだ。欧州単一通貨ユーロ圏の経済は病んでいる。
筆者の理解では、QEについて先週末までに一部で合意があったようだが、なお主要項目の多くで議論が続いている。買い入れ規模も発表される。5000億ユーロに達するという観測もあるが、さらに膨らむかもしれない。
QEは大きな規模で開始すべき
購入金額は大きな問題でないという楽観的な見方もある。いったんQEを始めれば、目標のインフレ率を実現するまで終えることができない。このため、スタート時点でのQEの規模は重要でないというのだ。筆者はこの考え方が誤りだと考える。政策のダイナミクスを正しく理解していないからだ。うまく物価が上昇しなければQEは失敗だとみなされる。その場合、追加緩和を実行するのでなく政策の打ち切りになるかもしれない。だからはじめから大きな規模で始めなければならない。買い入れ規模の大小は大事なのだ。
もう一つの未確定で重要な問題は、債務不履行(デフォルト)に陥る国が出た場合の対応だ。だれが損失を負担しなくてはならないのか。これはかなり複雑な問題である。
筆者が今週起きると予想するのは、ユーロ圏の各国政府に自国が発行した国債の買い入れリスクを負わせる案での合意だ。要するにリスクを(ユーロ圏各国で)分担しない。それはドイツをはじめとするQE反対派への大きな譲歩となる。ドイツ政府は見返りに、この骨抜き案を事実上認めるか、激しい反発を控える。そのほかのやり方では、ドイツ政府はほぼ間違いなくECBを提訴するはずだ。
仮にユーロ圏のイタリアがデフォルトに陥った場合を想定してみる。どのような展開が予想されるだろうか。イタリア中央銀行は買い入れた国債の損失を負担し、自己資本はマイナスになる。だが、イタリア中銀はECBに出資しているため、ECBの将来の利益の一部が自らの資本だと主張する可能性がある。あるいは、ECBが準備資産として保有する金の一部を使い、増資を実行するかもしれない。何が起きるかはデフォルトの規模、ECBへの出資額などによって変わってくる。
デフォルトとユーロ離脱を同時に決断する国が現れると事態はさらにややこしくなる。
詳細がわかるまではQEへの評価を控えたい。リスクを共有し、大きな規模で、ドイツの提訴も辞さない策が好ましいとは思う。ドイツの抵抗や、同国がユーロ圏から離脱するリスクは、QEが機能不全に陥るリスクよりもはるかに小さい。
筆者の予想通り、ECBがリスクを各国のバランスシートにとどめるのならば、QEが全体としてどのような影響を及ぼすのか法的な面を含めた細部を十分に検討しないと判断できない。その場合でもQEは実行する価値があると思われるが、バズーカ砲(といえるほどの決定的な力をもつもの)ではない。
By Wolfgang Munchau
(2015年1月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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