原油、「15年半ばには需給改善へ」 IEA中期予測
【ロンドン=黄田和宏】国際エネルギー機関(IEA)は10日、2020年までの石油市場の需給動向を分析した中期予測リポートを公表した。原油価格の大幅な下落を受けて北米産の非在来型原油シェールオイルの増産ペースが鈍化し、予想より早期に市場の需給が改善に向かうと見通した。一方、原油安による消費の刺激効果は限定的とみて、原油需要の予測も引き下げた。
IEAは石油輸出国機構(OPEC)加盟国を除く20年の世界の原油供給量を日量6000万バレルと予測した。年平均の増産ペースは57万バレルにとどまり、原油安を受けて過去5年間の平均の100万バレルを下回るとみている。17年以降は、昨年6月の前回予測に比べて100万バレル強下方修正した。
原油安の影響がすでに顕在化しているのがシェールオイルだ。シェール関連企業が経営破綻するケースもあり、IEAは年後半にシェールの増産が小休止すると予想した。生産設備への投資が急減していることを受けて、17年までは緩やかな増加にとどまるとみられる。米国とカナダを合わせた北米の生産量の増加は20年までの年平均で日量50万バレルと、過去5年間の平均(110万バレル)を大きく下回る。
ロシアの生産見通しも大幅に引き下げた。「原油安の最大の犠牲者」と強調するように、供給量が20年までに56万バレル減少し、日量1037万バレルに落ち込むという。従来は19年に1100万バレルを突破するとみていた。欧米の経済制裁と原油安、通貨ルーブルの下落で資金調達環境が悪化しており、新規投資が縮小する影響が出る。
一方、原油急落は世界経済の成長見通しに複雑な影響を与え「原油需要の押し上げ効果は良くても緩やかなものにとどまる」と指摘する。20年の世界の需要見通しは日量9910万バレルと14年からの増加率は7%どまり。16年以降は需要量が前回の予測を110万バレル下回る。
IEAが注目するのが、原油安によるデフレ圧力が原油消費に与える影響だ。原油安は輸入国の可処分所得を高める半面、「デフレ期待で経済活動が停滞すれば、原油消費の増加を抑制する側面がある」とIEAの中期予測責任者、アントワーヌ・ハルフ氏は話す。特に、日本や欧州で需要鈍化を招くおそれがあると懸念する。
中国の消費量も大きく下方修正した。経済が輸出主導の製造業主体から内需中心へと移行するにつれて、エネルギー消費に占める原油への依存が低下すると分析。20年までの需要増は16%に伸びが鈍化するとした。
当面は原油供給の増加ペースが鈍化することで、供給過剰にある原油市場の需給は均衡に向かう見通し。15年半ばには在庫の積み上がりが一巡し、16年以降にはOPEC産原油への需要が増加に向かうと予測する。もっとも、シェールオイルの生産は価格に敏感なため、原油価格が回復すれば生産が再加速する見通しで、今後はOPECに代わってシェールが市場の需給の調整弁としての役割を担うとみている。