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「あなたにしかできない仕事」はない

NPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹(4)

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起業して5年ほどたったとき、僕は働き方をドラスチックに変えました。長時間労働をやめ、定時で働くことにしたのです。

社員を壊してしまうかも

起業すると、最初は死ぬほど忙しくなります。パワーがいるので、一時期は仕方がないのかな、と思います。でも社員が増えてきたのにみんなで同じように働いていると、社員にしわ寄せがいって、ひずみが生まれます。あるとき、そのことに気がついたんです。

僕が働き方を変えようと思ったきっかけは、いくつかありました。

まず、フローレンスで働いていた女性スタッフ、特に優秀な人がどんどんやめていきました。それとほぼ同じころ、公務員をしていた知人が重度の鬱になったんです。とても明るくていい人だったんですが、ある朝、起きることができなくなった。

「もうダメだと思う」。その彼から突然電話がかかってきました。駅のホームにいるらしく、電話の向こうからゴーッという電車の音が聞こえてきました。本当に焦りました。彼は無事でしたが、非常にショックでした。

話を聞いてみたところ、上司のマネジメントが非常によくなくて、ストレスフルな仕事と長時間労働を強いられていたことがわかりました。話を聞きながら、こうも思いました。上司が彼を死の直前まで突き落としたのと同じように、自分も社員の人生を壊してしまうかもしれない――。その可能性に気がつき、怖くなりました。

常に忙しくある必要はない

働き方を変えないといけない。そう思いました。でもどうすればいいのか。ベンチャー企業の経営者は忙しい……。

「なぜベンチャーの経営者だから忙しいのか。それはあなたの思い込みでしょう」

ある方に相談したら、あっさりと言われてしまいました。確かによく考えてみると、常に忙しくあり続ける必要はない。忙しいことが会社にとってプラスになっているかといえば、そうでもない。

結局のところ、不安だったんです。忙しくしていないと、せっかく立ち上げた組織(フローレンス)が倒れてしまうんじゃないか、と。それは「正しい忙しさ」ではなくて、不安を解消するための「疑似的な忙しさ」だった。その自分の心のメカニズムに気がつきました。

じゃあ午後6時には家に帰ってみよう。朝は世間で定時といわれている9時に出社してみよう。

初めはすごく不安だったのですが、実際にやってみたら特に問題はなかった。代表である自分がいなくなると社員のみんながサボるんじゃないかと思ったら、そんな様子もなかった。

逆にいいことがたくさん出てきました。家族や友人との時間が生まれて、精神的にも余裕が出てきて部下にも優しくなれた。これはいい。

自分だけじゃだめだと思って、社員にも勧めました。「帰れ!帰れ!」って。でも染みついている文化がありますから、みんななかなか帰らない。仕事は変わらずたくさんある。どうすれば定時に終わらせることができるか。そこで「働き方革命」を起こしたんです。

会議を「見える化」 参加者も時間もスリムに

まずは会議に出るメンバーをスリム化しました。本当に出る必要がある人はどのくらいいるのか。精査したところ、半分以下だった。一言もしゃべらない人もいたんです。ただそこにいるだけだったら、その時間をほかの作業に充てた方がいい。

ある議題だけ出る必要がある、という人もいました。そこで一部だけ出るサブメンバーと、最初から最後まで出るフルメンバーに分けました。サブメンバーは必要な議題になったら呼ぶ。

こうして精査していくと、フルメンバーは3分の1くらいになった。一番減ったのは僕です。ほとんどサブでよかった。

会議自体も工夫しました。議事録をその場で取りながらプロジェクターで映して、「今日はこの議題を話す、今話しているのはここ、これは次回に宿題」ということをその場でやるようにしました。議事録を書く時間が省略できたわけです。

会議を「見える化」すると、その場の思いつきで議題にないことを話すことを避けられるし、逆に「それってありましたっけ」と忘れてしまうようなこともない。それまで2時間やっていた会議が1時間以内で終わるようになりました。

仕事をブラックボックス化するな 1仕事2人原則に

仕事の進め方も変えました。いつも忙しそうにしている人っていますよね。けれどその人が何に忙しいのか、周りはわからないことが多い。

そんな「仕事のブラックボックス化」は効率的な働き方の敵です。そこで、会議や仕事に人が張り付くのをやめました。

1つの仕事に対して主担当と副担当を決めて、必ず2人で担当するようにしたんです。すべての仕事を兼務にした。

そうするとトータルの人数は増えないけれど、仮にAさんが休んでも代わりにBさんができる、というように休みやすくなります。加えて、仕事を共有しなきゃいけないから無駄なことをやっていると相手からツッコミが入る。「オレ流」で非合理的なやり方は通らなくなるし、結果的に書面で伝える場面が増え、マニュアル化が進みました。

管理職の仕事は「自分がいなくても回るチームを作ること」

一番苦労したのは、管理職のマインドを変えることでした。

忙しい自分が好きで、忙しさ=自分の「かけがえのなさ」であると信じてしまう――。管理職に多い傾向です。責任感が強い人ほどそうなりがちですが、その人が機能しなくなったら止まっちゃうので、組織にとっては迷惑な話です。

彼らは「自分がいないと機能しなくなる」と存在価値を誇示し始めた。僕は「君たちがやらなければいけないことは、君たちがいなくなっても回るチームを作ること。『俺がいなきゃだめ』は禁句ね」と伝えました。

これでモチベーションやプライドを保てるのか。危惧する方もいるでしょう。でも、仕事に過度な「自分」はいらない。「自分の職場でのポジション=自分の存在価値」と考えるのは間違っている。

「あなたは個人としてはかけがえのない人だけど、職場としては代替可能な人間です。それは僕も同じです。誰かが誰かの代わりになる。そんな組織にならなければこの組織はよくならないし、僕が求めるのはそういう管理職です」と100万回くらい言いました。

「僕らはこの場所を世界一働きやすい職場にする。

それは必ず世の中を鼓舞することになる。それが僕らの使命だから業務としてやってほしい」と僕は何度も語りかけました。

そう言い続けるうち、彼らも「自分たちの働き方を変えることが、世の中の働き方を変えることになる」と思ってくれるようになりました。

組織がビジョンを提供できれば、自己実現は可能

こうした働き方は、これまでの「常識」からすると百八十度違うかもしれません。一般的には「誰にもできないことができる人になって、皆から頼られて自己実現」という考え方かもしれません。

でもそれは違うと思う。社員には、そんなところで自己実現しないでほしいと思います。なぜならそれは個人の最適化であって、全体の最適化ではありません。組織としては全体の最適化を目指すべきです。

では社員は仕事で自己実現はできないのか。そんなことはありません。それは組織がビジョンとして提供すべきなのです。

僕らの事業でいえば、すべての困っている人たち、子供たちにすばらしい病児保育や小規模保育を提供する。そしてすべての親たちが仕事と子育てを両立できるしなやかな社会にする、というビジョンに向けて自己実現してほしい。会社の大きな目的と個人のビジョンを重ね合わせ、そのビジョンを実現していくプロセスにおいて自己実現してほしいのです。

自分にしかできないことを、組織内にマッチポンプにつくり出すことが自己実現ではありません。それは手段と目的をはき違えています。あなたしかできないメールの書き方をしてほしいわけではない。自己実現と社会実現を重ね合わせてほしい、と思っています。

※隔週火曜日更新。駒崎弘樹さんのコラムは次回、11月12日(火)に掲載します。

「僕たちはどう働くか」では読者の皆様のコメントを募集しています。コメントはこちらの投稿フォームからお寄せください。
読者からのコメント
G@A 20代男性 東京都(会社員)
とても共感できる内容でした。自分は平社員で、 業界的にも長時間労働が当たりまえの会社です。頭では理解できるのですが、行動に移すことができないジレンマをいつも抱えています。この記事のおかげで改めてライフワークバランスを考えさせられました。
Anthen 30代男性 大阪府(会社員)
すごくいい話です。 会社員は会社の財産です。社員は楽に仕事ができるほど、会社がよくなります。 楽しく仕事ができると、会社員の不安、ストレスが解消できます。 楽しく仕事ができると、離職する社員がいないと思います。 楽しく仕事ができると、社員が長く勤めて、会社の重大な財産になります。 顧客が探せばまだいいけど、いい社員が離職するとなくなります。
柴犬 20代女性 愛知県(会社員)
「どう働くか」 昨今、難しい課題と思います。 長時間労働のうえに、一人あたりの業務は増える一方。 抜本的に会社として改善をすること、管理者の考え方を変えることももちろん必要です。 私は、まず相手(周囲)に求める前に、自分が変わる工夫をしました。 「仕事をきちんとこなし、定時に帰るにはどうしたらよいか?」それを自分で考え、実践(アクション)を起こすことが、一番必要ではないでしょうか。 目の前にある自分の仕事に、一生懸命取り組めば、 おのずと何をすべきか見えてきます。 ある程度は、周りに対して「割り切る」ことも必要です。 そうすれば、必要以上に悩んだり、腹を立てることも少なくなるのではないでしょうか。
20代男性 愛知県(学生)
NPO法人なのにベンチャー企業とはどういうこと なのでしょうか?
せらお 40代男性 兵庫県(会社員)
大きくうなずきながら読ませていただきました。NPOなので、いわゆる「オーナー企業」に比べ、より「代表者が倒れても、事業が継続することが当然」という状況下、スタッフにも「自分の代わりを準備し続ける仕事のやり方」を実践させる。素晴らしいことです。これまで約25年、職場はいくつか変わりましたが、ずっと「明日、私が交通事故で倒れても、誰かが代わりに仕事できる」ように意識して来ました。仕事とはそうであるべきだと固く信じています。
30代女性 東京都(会社員)
効率よい働き方、とてもとても共感しますが役員世代のおじさん達には響かなそうな気もします。時が経つのを待つしかないのかも・・いや、今からでも自分たちの世代が変えていかなくちゃですね。
50代男性 神奈川県(会社経営・役員)
会社に私がいなくても回ります。 しかし私が回すのよりもずっと遅くなる。 そうすると、同業他社との競争に負けて会社はなくなります。 社外との競争のない労働環境は羨ましいです。
金魚 20代女性 東京都(会社員)
日本人て、イメージ先行型の人が多いと思います。 ビシッとスーツ着て、朝から晩までひたすら仕事してる人が仕事ができる人ってイメージが先行してて、業務内容まで気にしてないと思います。 結局は内容のないことに時間をかけて「出来るふり」をしている人が多いのではないでしょうか。 時間をかけずに、いかに効率良く稼ぐか、という点は今まであまり重要視されなかった点かもしれません。 労働人口も減る一方で、業務は複雑化して行くわけで、 もっと1人1人の、時間的単価、業務的単価を上げる方法を考えなければ、と自問自答する日々です。
ippey 20代女性 兵庫県(会社員)
後に続く世代のためにも残業という2文字を職場から無くすべき。 働くことにネガティブなイメージを持ってほしくない。長時間の労働より短時間での生産性向上を。
渡良瀬 40代男性 東京都(その他団体職員)
自分が不要になることがミッション。何か問題が発生したら登板。 そういう管理職が増えると組織の活力が増しそうです。
butabana 30代男性 大阪府(会社員)
属人化とアイデンティティーを一緒にしている人が多い中、 しっかりと会社を育てていく社員をどう育成できるか。 各社、頭を抱えている問題と思います。 自身も管理職という立場で、部下をどう育てるか、悩みに悩んでおります。 この記事を読んで「会社と働き方」が少し明確になりました。 参考にさせていただきます。
読者からのコメント
 30代女性 神奈川県
本当に素晴らしい!!今すぐうちの会社にも見習って欲しいと思いましたし、社会全体でこの考えが当たり前になってほしいと思いました。長時間残業・徹夜が当然、定時退社や年休消化なんて都市伝説というような会社では、出産子育てしながら働き続けるどころか、子供がいなくたって疲弊してしまいます。家庭を顧みず働いたらみんな幸せになる、そんな時代はとうの昔に終わったんだということに早く気づいて欲しいです。
うみ吉 50代男性 東京都
忙しく人ほど無駄が多いですね。著者は頭が素直な賢人ですね。 参考になりました。有難う。
LLP5869 40代女性 大阪府
数人の小さい会社では「その人だけ」が受け持ってる仕事があったりしますが、そういうのを代替可能にしていくには……と考えながら読みました。
健二郎 50代男性 奈良県
究極にはチーム力強化の重要性、個人の力の限界を述べられていると思う。確かに31年、会社勤めをしてきた経験から言うと個人力を重視していた企業は、時代の変化を読めずジリ貧になった処が多く、個人の力もない場合がほとんどであった。今の時代は間違いなくチームの時代である。若いのにその事に気づいているのは、大した経営者だと思う。
Ademir 40代男性 大阪府
とても納得できます。 前線にいる時は「もし自分がやめたらこの会社は絶対潰れる」と思い込んでいる人が多いですから。 そう言ってからやめた人を見てきましたが、1年もすればちゃんと回るようになるものです。 ただ私の仕事仲間にはイラストレーターがいて、その人のデザインを商品化などしているのですが、この人がやめたらその後は「別の仕事」になってしまうだろうなと思います。 もちろん病気などの時を考慮して代替できる人間を育成しているし、交代できるよう統一した絵柄も作ってはいます。 しかしやはりこれは彼のデザインではない。 そして我々は彼のデザインを商品化することこそが目的だったことを忘れてしまいそうになるのです。 また、「常識からすると180度違う」と書いていますが、これは会社として常識だと思います。
のぞみ 30代女性 東京都
短大を卒業する時に言われた言葉で忘れられないものがあります。「職場でかけがえのない人になろうなんて思うな」というものです。保育学生だった私たちに、自分がかけがえのない人だと思い込んでいる大人に保育される子どもたちが、苦しむ可能性があることを示唆するものでした。 様々な人に見守られて育っていく環境が子どもにとって大切であるように、仕事もまたいろいろな人の視点があることでその内容が精査され、ビジョンの実現に向けてより良い方法が見つかることが大切なのではないでしょうか。
りや 30代女性 和歌山県
共感出来ました! つい最近40代の同僚社員が、自分しか出来ない、コツがいるなどと言って他の人にさせない仕事がたまってしまったので私が指導してもらい作業したらあっさり出来ました(笑) 教えるのに時間が…などと言っていたらしいのですが、すぐに終わりましたし、自分しか出来ない仕事が欲しかったんじゃ?と。コツと言っていたものもただ改善すれば良かったようなものでした。 その人にしか出来ない仕事(役職などに関係ないもの)というのは、本当に会社のためにはならないなって感じたとき、この記事を読んだのですごく考えさせられました。
refresher 40代男性 大阪府
1つ1つのお話は大変共感するものがありましたが、最後の「会社のビジョン実現のプロセスにおいて自己実現を果してほしい」というのは、やや抽象的なメッセージであり、働く側には今一つピンとこないかなと感じました。これを上司から言われても、正直「じゃ、一体何をすれば良いの?」と感じてしまいますね。 組織としての共通の価値観を「企業ビジョンの実現」に置くという前提条件が整ったうえで、「今日のあなたの仕事ぶりの延長線上には『企業ビジョンの実現』というマイルストーンが見えていましたか?」、それを日々一人ひとりが自問自答しながら前進し続ける組織となってほしい、そんなメッセージが込められた文章と理解させていただきました。

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