民法の大改正を機に消費者も自立を
民法のうち個人や企業の取引規則を包括的に定めている債権法について、法制審議会(法相の諮問機関)が改正原案をまとめた。1896年(明治29年)の制定から初の抜本改正となる。
約200項目に及ぶ大改正は、契約のルールを社会の変化に沿ったものにし、消費活動が円滑に行われるようにすることを目指している。消費社会の成熟へ新民法を十分に生かしたい。
改正原案では、支払いの遅れた債務の返済などに使われる法定利率を年5%から年3%に下げ、さらに定期的に見直す。一般の金利が市場実勢で変わるようになって久しい。社会の変化に合わせた法の現代化という意味では当然の改正で、遅すぎるくらいだ。
お金の支払いに関する時効の見直しも、現代化の観点で違和感はない。現在は飲食代は1年、弁護士費用は2年といった具合に消滅期限が異なっているが、これを一律5年にする。個別の消滅時効は職業が多様化している現実にうまく対応できず、そもそも合理性を見いだしにくい。
今回の改正作業は法の現代化とともに、金銭や物のやりとりにかかわる個人の保護も強く意識している。代表的なのは連帯保証に関する規定だ。
企業が融資を受ける際、経営者の家族などが気軽に連帯保証人になり、多額の債務を負ってしまうことがある。こうした事態を防ぐため改正案は、家族などが保証人を引き受けるにあたっては公証人が立ち会って自発的な意思を確認することとした。
保護の強化に個人の側が安心したのでは、効果は相殺される。むしろ法律の改正を、融資の仕組みを学ぶなど自助努力を強めていくきっかけにしたい。
ネット上の売買などでよく使われる約款に関しては、買い手が著しく不利になる項目は無効とするといった改正案が検討された。これに対し経済界から適用範囲の不明確さを指摘する声も出たため、法制審は結論を先送りした。来年2月の答申にむけ、改めて細部を詰める運びだ。
ひとを欺くような複雑な約款が排除されれば、消費者の保護に役立つ。加えて、約款を丁寧に読んで自らトラブルを回避できるような賢い消費者が増えれば、ネット取引のいっそうの拡大につながる。民法の改正は改めて、消費者に自立を促している。