エネルギー分野に種まく大林組 都市開発で強みに
エネルギー制御し、電力使用量2割削減
2月、東京都清瀬市。大林組の技術研究所を訪れると、新しいエネルギー制御システムの中核となる発電設備があった。200キロワット級のガスエンジン発電機が2基と、その排熱を使った小型タービン発電機だ。マイクロコンバインド発電システムという。
この設備の意義について、環境ソリューション部の小野島一部長は「電源を上手に分散しようという狙いです」と話す。研究所には820キロワットの太陽光発電パネルもある。2つの電源で、東京電力からの購入電力量を減らす。
電源が複数あるだけでなく、発電されたエネルギーをためたり放出したりする3000キロワット時の大型蓄電池がある。比較的長寿命で、出力が強く安全性も高いレドックスフロー電池だ。
制御システムの開発で早稲田大学の先進グリッド技術研究所の林泰弘所長の協力を得た。様々な設備をまとめ、需給バランスを自動調整する仕組みを導入するためだ。
天気予報の情報などビッグデータの分析で、約200人が働く技術研究所のエネルギー需要を細かく予測できる。同時に、新しいエネルギーシステムでどこまで供給が可能かを計算。そのうえで、勤務者に照明を落とすよう指示を出したり、自動で空調温度を下げたりといった対応も可能だ。
小野島氏は「電力会社との契約は、使用量のピークに合わせるが、無駄も多い。ピークを下げることでコストを引き下げられる」と話す。技術研究所では、2015年の電力量を12年に比べ約2割(年間1000メガワット時)、二酸化炭素(CO2)排出量についても2割(年間450トン)削減できる見通しだという。
スマートシティーにらみ、街単位での受注も
大林組の技術を統括する三輪昭尚専務は「スマートシティーを実現するためには創エネと蓄エネ、省エネ、エネルギーマネジメントシステムの発展が欠かせない」と話す。このほど完成したエネルギー制御システムは、すでに売り込みを始めている。将来は街単位の需要を取り込んでいくため、さらに技術開発を急ぐ。
大林組はエネルギー分野の事業について、14年10月に立ち上げたテクノ事業創成本部に組み入れた。白石達社長は「技術をテコに新たな収益を生むことを使命としている本部」と語る。
エネルギー分野では太陽光の発電事業者として125メガワット分の設備投資を決定済みで、71メガワット分は稼働している。小水力発電は栃木県日光市内などで事業化の可能性を調べている。風力は丸紅などと共同で秋田沖洋上風力の事業化調査に参画中だ。地熱発電は、王子製紙と北海道で取り組んだ調査が白紙になったというが、今後も積極的にかかわっていく。
白石社長は「東京五輪そのものの建設需要はそれほど大きくない」といい、五輪後の反動も小さいとみている。それでも、国内市場が縮小に向かう点について危機感は強い。時代のニーズに応じて知恵を絞り、建設会社の新しい役割を描き出すことに懸命だ。
エネルギー事業はまだ利益としてあがってきてはいないが、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度があるため、中期的に安定した利益が得られるとみる。そこにエネルギー制御システムなどを組み合わせて事業拡大を目指す。
複数の建物でできている学校や工場に、企画の協力から維持管理のサービスまで提供する。エネルギーのシステムをよく知り、工事にもたけた会社は都市開発でも重宝されるに違いない。技術研究所でまいている種は大きく育つ可能性がある。(企業報道部 緒方竹虎)
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