階段上りが楽に 3週間で効果実感「1畳筋トレ」
運動の種目選びで記者がまず思いついたのは腕立て伏せだ。室内でも1畳あれば十分にできるし、つらそうな分、効果が上がりそうだと思えて1週目はこれから始めることにした。
初日、自宅で挑戦すると予想外に少ない回数しかできない。最初は深く腕を曲げて顎を床につけると10回で限界だった。その後2~3日間は「10回やっては休憩してあと5回」「朝に10回、夜に10回」など自分なりに工夫して回数を伸ばそうと悪戦苦闘した。
ただ、疲れる割には筋肉を使っている手応えがない。このまま続けても、効果が出ないかもしれないと、あおむけに寝てから起き上がる腹筋運動も加えた。腹筋は頑張れば50回ほどできたが、やはり効果の実感はあまりなかった。
2週目から自己流でなく専門家の助言を受けることにした。「やってはいけない筋トレ」の著者でスポーツトレーナーの坂詰真二さんに聞くと、種目について「私なら腕立て伏せは選びません」とバッサリ。理由は使う筋肉が多くないからだという。「1種目だけで効果を上げるなら、体の6~7割の筋肉が集まる下半身を鍛えるスクワットがお勧めです」と助言された。
坂詰さんによれば、太ももや尻の筋肉は上半身に比べ年齢とともに衰えやすい。「逆に言えば、きちんと鍛えておけば高齢になっても日常動作が楽にできるし、大きな筋肉なので代謝アップで体脂肪を減らす効果も期待できます」
「腕立て」より効果 休憩日設けよう
具体的な運動法も教えてくれた。どれを選ぶかの目安は階段上り。階段を1段ずつ上るなら問題ない人は、両足をそろえた形で試す(図1のA)。階段上りがつらい人は椅子を補助に使う。前方に置いた椅子の背もたれに手を置き、体重を分散して屈伸する。逆に1段抜かしで楽に上れる人は、両足を前後に広げた形だ(図1のB)。記者は足を前後に広げた形を試すことにした。
どの形もしゃがむときは息を吸いながら2秒、立つときは息を吐いて1秒をかける。10回1セットで30~60秒の休憩をはさんで3セットが目安。最初の3セットが終わると太ももあたりが張り、確かに筋肉を使ったという実感があった。
1週目は毎日、腕立て伏せをしていたが、本当は筋肉を回復させる休憩日が必要なことも同時に教えられた。その後は坂詰さんの助言を基に休憩日を設け、スクワットを週3回試した。最初は脚の張りを感じたが、筋肉痛というほどではない。腕立て伏せに比べて効果を感じる分、運動後の疲れも心なしか気持ち良くなってきた。
効果は実感でき始めたが、1種目だけだと休憩があるので毎日は運動できない。そこでスクワットの休憩日には腕立て伏せなどを続けたが、相変わらずこちらの手応えはいまひとつのまま2週目は終了した。
3週目には新たな運動法を聞けた。「体脂肪を効果的に燃焼+運動能力・体力UPのファンクショナルトレーニング」の著者でボディデザイナーの森俊憲さんが教える腹回りにきく運動だ(図2)。「あおむけに寝て起き上がる腹筋運動より効率的です」という。
成果を実感 長続きのコツ
うつぶせで両肘をつき、脚を伸ばして体を一直線にして支える簡単な運動だが、実際にやるとつらい。1セット30秒で、1~2分休憩しつつ2~3セットが目安だが、初回は20秒もたつと腹筋が震え出した。
森さんは「苦しいなら5秒からでもいい。長くやろうとしてフォームが崩れる方がよくない。他の運動でも悪いフォームでたくさんの回数をやっても効果は上がらないですよ」と教えてくれた。この話を聞き、1週目の腕立て伏せは回数を増やそうとするあまり、姿勢が崩れていたのかもしれないと思い当たった。
森さん推薦の運動は自分に合う秒数を守れば毎日やってもいいという。早速その日から始めると、3週目の終わりには以前より腹筋に力を入れやすくなった気がした。同時にスクワットを続けた脚の変化があり、階段を上るのが楽になった。試しに通勤中に今までエスカレーターを使っていたところも階段で上ったが、脚が疲れなくなった。
もっとも、3週間の運動を終えて体重や腹の周囲を測ると、変化はなく、数値上の成果は残せなかった。専門家によれば室内運動で体のサイズまで変化させるには3カ月はかかるという。森さんは「まずは『力が入りやすくなった』など自分なりの成果を感じることが大切。それを積み重ねないと3カ月間はとても続かない」と話す。
確かに最初はとても面倒に思えた運動が、成果を感じた途端、楽しくなった。そういう現金な心理も上手に使うことが体質改善の第一歩になる。
スクワットや腹回りの運動は、フォームや秒数さえ調整すれば女性や高齢者もできる。1週目からこれらを試していれば、記者ももう少し成果を出せたかもしれない。
単純に「腕立て伏せをたくさんやればいい」と考えた浅はかさを何度も恥じ入る3週間だった。専門家に聞くと、こうした思い込みで運動を始めて「成果が出ない」と投げ出すのが、素人トレーニング失敗の典型例だ。鍛えるのは体でも成否を分けるのは結局「心」の持ちようということか。
(堀大介)
[日経プラスワン2013年8月24日付]