最近よく聞く「一丁目一番地」ってどこ?
菅内閣の一丁目一番地は――。最近、「最優先課題」などの意味で「一丁目一番地」と表現するのをよく聞きます。主に政治家が口にするフレーズですが、永田町かいわいではもともと別の意味で使われていたようです。
「一丁目一番地」を取り上げる国語辞典はまだほとんどなく、2009年10月にデジタル大辞泉(小学館)に収録されたのが目につくくらいですが、新聞紙面では1980年代から見られる語です。橋本内閣の梶山静六官房長官(当時)が行政改革を「一丁目一番地」と言い、小泉純一郎首相(同)が郵政民営化を「小泉改革の一丁目一番地」と呼ぶなど、政治関係の記事での使用が圧倒的な数を占めます。
政界では国会の本会議場で当選回数の若い議員ほど前に座る慣習があり、演壇に近い前列の席を「一丁目一番地」と呼びならわしてきたそうです。また霞が関でも、旧通商産業省などから出た用法で、予算で前面に押し出す目玉政策を指して「一丁目一番地」と表すことがあるといいます。もともと永田町ではよく聞く表現だったといえますが、09年の政権交代以後、鳩山由紀夫首相(同)が地域主権改革を「まさにこの内閣の一丁目一番地」などと繰り返し発言したのを機に広まりを見せ、新聞に登場する回数が急増しています。
「辞書になくても意味が通じ、よく使われるのが興味深い」と話すのは現代語の用例採集で知られる飯間浩明・三省堂国語辞典編集委員。「東京都千代田区永田町1の1」には日本の測量の基準となる「日本水準原点」があり、日本初の西洋風ホテルである帝国ホテルが建つのは「千代田区内幸町1の1」。1丁目1番地はいわゆる「一等地」の場合が多く、「一丁目一番地」には重要なもの、原点というイメージがあるのかもしれません。
民主党と連立を組む国民新党に対して、菅直人首相が「百丁目百番地まで共に歩みたい」と発言したことがありましたが、2番地、3番地と続いていく順番をイメージしやすく優先順位を表現するのに便利という面もありそうです。「丁目」「番地」とことばを重ねることから、優先するなかの特に最優先すべきものとして意味を強調する効果や、「一」「一」と韻を踏んでリズムがよい点も広まる理由として考えられます。
政権交代以降、民主党政権が「一丁目一番地」と呼んだものを見ると、地域主権や子ども手当、公務員削減といくつも出てきますが、菅内閣の「政策課題一丁目一番地」はいったいどこにあるのでしょうか。便利なことばに踊らされず、しっかりビジョンを示して取り組んでいってほしいものです。
(若狭美緒)