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ものづくりニッポン 世界最強の生態系守れ

「製造業NEXT50 上場中堅企業ランキング」 部品・素材、裾野の広がりが力

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 日本の製造業が曲がり角に差し掛かっている。電機が不振にあえぎ、自動車も海外に生産シフトを進めるなど、二枚看板がかつてのけん引力を失っている。ただ、部品や素材などに広く目を向けると、6重苦をものともせず成長を続ける中堅企業は少なくない。日本の製造業の未来は世界最強のものづくり生態系をどう維持し、発展させるかにかかっている。

今年1月の米家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」。韓国サムスン電子が展示した厚さ約2センチメートルの液晶テレビが業界関係者の注目を集めた。量産機種では画期的な薄型化を可能にしたのが、精密樹脂加工のエンプラスの技術だ。同社の特殊レンズをバックライトに組み込むと構造を簡素化でき、発光ダイオード(LED)の数も減らせる。自動車や産業機械向けの樹脂製ギア製造で培った金型の成型技術を生かした。世界シェアは100%だ。

月に数億個生産

「世界市場で顧客をつかまえないと次の成長はない」。特許の塊であるレンズ技術を確立したのが2008年ごろ。10年にはシャープが採用したが、技術の真価に気付いたのはサムスンだった。1台のテレビに60~70個のレンズを使うため、現在は月産数億個の体制を敷いている。

日本の部品・素材業界には他国に例がないほどの裾野の広さがある。世界市場を切り開いた電機や自動車といった完成品メーカーの躍進によって、世界で無二の技術生態系が出来上がった。先導した完成品メーカーが勢いを失ったら、部品・素材メーカーはどこに活路を見いだすのか。もし、エンプラスが日本メーカーだけを見ていたら、今日の成功はなかった。

シェア90%超

経済産業省が毎年まとめている「日本企業の国際競争ポジションの定量的調査」。最新の11年度版でも半導体製造に欠かせない一部の基幹装置の日本勢のシェアは90%超だ。ものづくりの上流企業は、しがらみを飛び越え、世界企業と直接取引する。

ニューフレアテクノロジーは半導体回路の原版(フォトマスク)を作る最先端の量産装置で世界市場の9割を握る。米インテルやサムスン電子などが手掛ける最先端の大規模集積回路(LSI)の製造・開発に不可欠で、半導体製造の最上流工程である同社の装置無くして、デジタル機器の高機能化や小型・薄型化はおぼつかない。位置決め技術などを駆使し、他社に比べ倍の処理速度を確保した。

マスク描画装置を支える技術の源流は東芝まで遡る。東芝から東芝機械に移った技術者がニューフレアを立ち上げ、事業化にこぎ着けた。革新の担い手は中堅企業に広がってきた。

スマートフォン(スマホ)の進化を支えるのも、日本勢だ。

タツタ電線は成熟産業の典型とも言える電線製造で培った銅素材の加工技術を応用し、デジタル機器の最前線に立つ。スマホなどのプリント基板に張り付け、電磁波ノイズを遮断する電磁波シールドフィルムで世界市場の8割近くを握る。

環境・医療が上位に
 日経産業新聞と日本経済新聞デジタルメディアは共同で、売上高500億円以下の上場中堅製造業を対象に、資本効率の高さや成長性などから競争力を測った「製造業NEXT50 上場中堅企業ランキング」をまとめた。上位には「環境」「医療」といった成長分野の企業が並ぶ。
 1位の遠藤照明は業務用照明の分野でいち早く発光ダイオード(LED)照明に事業の中心をシフトし、省電力などをキーワードに導入事例を増やしている。
 4位のナカニシは歯科向けドリルの世界大手。病院の検査などで採血管の取り違えを防ぐ採血管準備装置を手がけるテクノメディカ(20位)など、医療関連の業務を効率化する機器や仕組みなどを提供する企業の業績も堅調だ。
 地方企業も善戦した。上位5位で首都圏に本社を置くのは、ニューフレアテクノロジー(2位、横浜市)など2社。世界市場に踏み出した地方企業が上位に入っている。

「もっと薄くできないか」。基板メーカーを飛び越え、海外の大手携帯電話メーカーからフィルムの薄型化を打診されたのが4~5年前。同社は新型機の開発に向け、1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル単位で部材の厚みをそぎ落としていた。

その約1年後。タツタ電線はわずか8マイクロメートルのフィルム開発に成功する。髪の毛の10分の1しかない超極薄フィルムだ。もちろん、電磁波の遮蔽能力はこれまで通り。主流の15マイクロメートルから厚みは一気に半分になった。出荷数量はここ3年で4倍近くに急増し、売り上げの9割を海外で稼ぎ出す。

2012年度のものづくり白書は中国、韓国など新興国の工業化が一気に進んだ背景として「ものづくりのモジュール化」を挙げる。薄型テレビなら液晶パネル、画像処理エンジンなどの標準的な部品を集めて組み立てれば、一定の品質の製品が出来上がる時代になった。「擦り合わせ」と呼ぶ、設計、製造段階の微妙な組み合わせや調整のノウハウは生きず、これが国内家電各社が苦戦する要因になっている。

しかし、中堅メーカーなどが供給し、モジュールに組み込まれる"強い部品"は、長年培ったものづくりのノウハウがなければ実現しないものが多い。規模は小さくても高シェアな先端品が日本に多いのもそのためだ。

さらに上流でものづくりを支える黒子もいる。

大阪府枚方市の企業団地の一角にあるホソカワミクロンの本社には国内や海外メーカーの開発担当者が新しい材料のヒントを求めて足を運ぶ。同社は材料を粉々に砕いたり、乾燥させたりする「粉体製造装置」の世界最大手。いわば材料開発の「駆け込み寺」だ。

食品から磁石材料まで用途は幅広く、特に2次電池の正極材や負極材に使う装置への期待は大きい。このため、昨年10月には2次電池を専門とするプロジェクトチームを立ち上げた。

正極材には電池の導電性をよくするため、炭素をつける。炭素の粒子を均等に並べて付けるには装置を知り尽くした「粉末のスペシャリスト」の知識が欠かせない。材料に応じて内部の部品を換え、均等に混ざり合うよう工夫する。「2次電池材料の輸出を狙い、韓国、中国メーカーの相談が増えている」という。

(指宿伸一郎、大西綾、新田祐司、広井洋一郎)

 製造業NEXT50 調査の方法
 上場企業のうち、2013年3月期など最新の連結売上高予想(非連結企業は単独売上高予想)が500億円以下の中堅製造業が対象。変則決算の企業と金融関連を除いた。
 ランキング作成にあたっては、NEEDS(日本経済新聞デジタルメディアの総合経済データバンク)から、(1)売上高営業利益率(営業損益が黒字の企業のみ対象)(2)自己資本比率(3)営業利益増減率(予想から3期前の実績との比較)(4)使用総資本回転率――4指標を使った。
 各指標をそれぞれ偏差値化した上でその平均値を基に総合スコアを出した(4指標が全て有効値である企業だけが対象。最終赤字のあった企業は除いた)。
 今回の調査対象となったのは全体で873社。うち、前記の条件に合致した263社を最終的に順位付けした。

日経産業新聞では25日付から創刊40周年連載企画「ものづくりニッポン」を掲載しています。

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