進まぬ東電再建と原発収束 福島の避難住民に難題
■警戒区域が消滅へ
警戒区域が設けられたのは、事故から1カ月あまり経過した2011年4月22日。災害対策基本法による警戒区域が原発事故で設定されたのは初めてで、福島第1原発から半径20キロ圏内が対象になった。9市町村の住民約7万8000人が強制避難を余儀なくされ、自由な立ち入りができなくなった。警戒区域の再編が始まったのは12年4月から。1年2カ月を経てようやく解消できたことになる。
区域再編が決まった5月7日、双葉町の伊沢史朗町長は「再編で生活再建のための賠償の取り組みができることは評価する」と語った。警戒区域が設定された当初から、放射線量が低い地域については、早期の解消を求める声が出ていた。政府も原発事故からの復興を加速するため、住民帰還につながる区域再編を急ぐはずだった。
しかし、この流れは政府が12年7月に賠償基準を発表したことで変わった。基準では、事故から6年を経過しても帰還できない場合は家屋などの不動産を全額賠償するとした。区域再編と賠償額が連動する形になり、避難区域のうち比較的放射線量が高い双葉町や大熊町、浪江町、富岡町の住民からは事故から6年間は帰還を断念するよう求める意見が増した。警戒区域の再編後は「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」の3つに分かれるが、住民らは帰還が5年以上できない「帰還困難区域」として町内全域を設定するよう強く求めたのだ。
■賠償額抑える思惑も
ところが、政府はこの要望を拒絶。富岡町や浪江町などは当初策定した復興計画案の見直しに追い込まれたほか、双葉町では町長が交代した。少しでも賠償額を減らして東電の再建を進めたい政府の思惑が働いたと見る関係者は多い。その結果、放射線量に応じて市町村がバラバラに刻まれた避難区域ができあがった。双葉町のある住民は「避難から2年が経過して家の傷みは激しく再び住むことなんてできない。福島第1原発もトラブルが相次ぎ、安心して帰還ができるわけがない」と不満を口にする。避難区域再編と福島第1原発の挟み撃ちで住民は苦しい立場に追い詰められている。
政府が帰還を促す理由の1つである東電再建の見通しは暗い。東電が4月30日に発表した13年3月期の連結決算は最終損益が6852億円の赤字になった。原子力損害賠償費として1兆1619億円を特別損失に計上したためで、3年連続の大幅最終赤字となった。石崎芳行副社長は3月の記者懇談会で「14年3月期が黒字にならないと、金融機関が融資を引き上げてしまうかもしれない」と苦悩の表情を浮かべていた。決算発表では14年3月期の見通しは「未定」。柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働にメドが立たない段階では、黒字達成の可能性は極めて厳しい。
福島第1原発のトラブルも周辺住民にとって不安が尽きない。地下貯水槽に保管していた汚染水が漏れ、周辺の土壌が汚染された恐れがある。ネズミの侵入で停電が起こり、使用済み核燃料の冷却が止まる問題も発生した。事故から2年を過ぎても汚染水の問題すら解決できないのが現状で、原発の事故収束にはほど遠い状況だ。
■地元「復興、国が前面に」
こうしたなか、政府が進める復興計画を地元経済界はどう見ているのか。福島県にある金融機関系シンクタンクの幹部は「政府は東電に全部の責任を負わせようとしている」と指摘する。これは原子力損害の賠償に関する法律に基づく。事故の責任者は事業者(東電)で、政府はあくまでも資金などを支援する立場だからだ。しかし、東電は公的資金を受けて実質国有化し、自ら経営判断できる余地は少ない。幹部は「国が前面に出なければ復興は実現できない」と強調する。
安倍晋三首相は4月26日、広瀬直己東電社長らとの会談で「福島の再生は現政権の優先課題。東電が民間企業としてきちんと再生することが重要だ」と語った。東電の経営が安定しなければ住民の帰還につながる賠償や福島第1原発の収束作業も実現しない。その一方で、東電の経営再建を優先すれば賠償が滞って住民の生活再建が遅れるうえ、原発の収束も進まない恐れがある。東電再建と福島復興。「二兎(と)を追う者は一兎をも得ず」ということになりかねない。
(科学技術部次長 竹下敦宣)
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