黒田総裁「市場、次第に落ち着き」 金利抑制、追加策見送り
日銀は11日の金融政策決定会合で長期金利上昇を抑える追加策の導入を見送った。市場では日銀が金融機関に低利資金を貸し出す「固定金利オペ(公開市場操作)」を拡充するとの期待が膨らんでいたが、日銀は動かなかった。黒田東彦総裁は記者会見で、金融市場が「次第に落ち着きを取り戻していく」と説明。従来の政策手法の「弾力的な運用で長期金利の変動を抑制していくことは可能だ」と自信をみせた。
今回の決定会合の最大の焦点は日銀が長期金利の上昇抑制へ追加策を打ち出すかどうかだった。
市場では日銀が固定金利オペで低利資金を貸し出す期間を現行の最長1年から2年以上に延ばすとの観測が浸透。見送れば株安・債券安・円高が加速するとの懸念も広がり、日銀に追加策を要求する「催促相場」の様相を強めていた。
■効果に自信
「(長期金利の)変動は収まってきており、現時点では必要ないとの結論に達した」。黒田総裁は記者会見で、固定金利オペ延長を見送った理由を説明した。5月に一時1%まで急上昇した長期金利は6月以降、0.8%程度で推移。現行制度でも金利変動を抑えられていると力を込めた。
5月下旬以降、長期金利の乱高下をきっかけに株安・円高へと揺り戻しが起きると、日銀内に固定金利オペの延長案が浮上。効果と副作用の検証を重ねた。黒田総裁も同日の記者会見で「(決定会合で)議論があったのは事実だ」と認めた。
導入を見送った理由の一つが、今回動けば「戦力の逐次投入はしない」という黒田日銀の哲学に反する恐れだ。市場が動揺するたびに小出しの追加策で後追いすれば、日銀は市場の信認を失う。
さらに黒田緩和の狙いと矛盾する恐れもあった。低利資金を金融機関に貸し出して国債購入を促せば金利は下がっても、日銀がめざす株式や銀行貸し出しへの資金移動を妨げる懸念がある。
銀行貸し出しが増える兆しは見え始めている。民間銀行の融資は4~5月に前年同月比2.1%増と4年ぶりの伸びを記録。国債に再び資金が戻り始めれば、その芽を摘む恐れもある。
物価上昇率の先行指標である市場の期待インフレ率は一時1.9%まで上昇した後、足元では緩和直後と同水準の1.4%近辺まで低下した。物価上昇率を目標の2%に引き上げることで、名目金利から物価上昇率を差し引いた実質金利を押し下げ、民間投資を促そうとしている日銀にとっては正念場といえる。
■一時96円台
今回の日銀の対応を巡って、市場の評価は分かれた。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の嶋中雄二氏は「『催促相場』では黒田日銀は動かないと印象づけた」と前向きに評価する。
しかしその後の海外市場では円が一時1ドル=96円台に上昇し、大阪証券取引所の夜間取引では日経平均先物が1万3000円を下回る場面もあった。「市場が不安定になるリスクはなお残っている。日銀には柔軟な対応が求められる」(明治安田生命保険の小玉祐一氏)との声も根強い。