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「ゼロ円」になったCO2排出枠 電力マネー消え在庫の山

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二酸化炭素(CO2)の排出に経済的な価値を付けようとした排出枠を巡る仕組みが揺れている。東日本大震災後に買い手が急減。排出枠はすっかり経済価値を失い、ゼロ円で移転する例も出始めた。それでも、国内排出枠の創出は続いており、買い手不在のまま、在庫は増え続けている。誰にも削減義務を課さぬまま、企業のボランタリーなCO2削減に期待を寄せた国内の排出枠の仕組み。ついに「ゼロ円」になった排出枠の在庫の山は、需要家不在で進んできた国内制度の矛盾を浮き上がらせている。

もはや売り物ではなく「おまけ」

「クレジット(排出枠)を売る? そんなこと考えていませんよ。おカネを払ってまで欲しい人なんていないんだから」――。省エネ機器を販売するアズビルの福田一成マーケティング本部部長は排出枠を巡る現状を嘆く。

アズビルは省エネ機器などを買った顧客が排出枠の創出を希望する場合、1トンあたり1000円で作った排出枠を購入してきた。2008年にできた国内クレジット制度のもと、これまで6000トン近くの排出枠を顧客から買っている。だが、その大半は使い道がないまま。今もアズビルの手元に残っている。

アズビルは多摩美術大学八王子キャンパスが昨年の「芸術祭」で消費した電力やガス、軽油などのエネルギーから出たCO2、70トンをオフセット(相殺)するため、同じ量の国内排出枠を多摩美大側に譲渡した。譲渡価格はゼロ円。多摩美大はキャンパスの空調改善などの省エネ工事をアズビルに発注している「お客様」だ。数千万円の工事の規模に比べれば、原価7万円の排出枠は小さい。もはや、排出枠は売り物ではなく、「おまけ」の扱いだ。

ゼロ円であっても排出枠の受け取りを拒まれ、困惑している例もある。機械商社の山善は環境機器の販売促進のため、08年から取引先である販売店に、海外から購入した排出枠を付与してきた。販売した環境機器のCO2削減見込み量に合わせて、排出枠を与える仕組み。例えば、年10キログラムのCO2削減が見込める機器を売った販売店には、10キログラム分の排出枠を与えた。

排出枠の管理はトン単位のため、細かい排出枠を譲渡されても販売店は管理ができない。そこで、権利譲渡後も山善が排出枠の管理を代行する形を取った。もっとも、権利を譲渡されたと言っても、ほとんどの販売店は使い方もよく分からない排出枠を山善に預けて放置したまま。山善の手元には、販売店に権利を移し替えた排出枠が5年間で、約3万トンもたまっていた。

 他人の権利を管理し続けるなか、ややこしい問題が浮上する。政府が京都議定書の第2約束期間への参加を見送ったことで、排出枠は海外移転ができなくなるなど、使い勝手が悪くなってしまった。先行きの価値が不透明になる中で、他人の権利を塩漬けにしたままにすることに不安が生じる。ましてや、保有者は山善から商品を購入している「お客様」だ。「納得されない扱いを強制したら、信用問題になりかねない。山善のブランドにキズが付くことだけは避けなければ」(松田慎二・住建事業部マーケティング部長)。といって、他人の権利は簡単に処分できない。

東日本大震災発生で状況は一変

そこで、考え出したのが、販売店の5年間の営業で排出したCO2の排出枠によるオフセットの呼びかけだ。オフセットすれば、販売店は「CO2ゼロ企業」を名乗ることができ、目に見える価値になるはずだ。販売店にオフセットを証明するための5年間の電力使用量とガソリンの使用量が分かる資料の提示を求め、200人近い山善の営業マンに集めて回らせた。オフセットに高い信用力を持たせるために、3000万円を費やし、第三者機関を立ち上げたり、独自のオフセットを示すマークを作ったりした。

しかし、5年前までさかのぼって資料を集める作業は手間がかかる。山善の呼びかけに応じた販売店は約900社の対象のうち、531社にとどまった。残りのおよそ400社はゼロ円にもかかわらず排出枠を受け取らなかった。1.3万トンの排出枠が、扱いの決まらぬまま山善の手元に残っている。「13年度もオフセットの呼びかけをする予定。『使いましょう』と働き掛け続けるしかない」(松田部長)

国内で作った排出枠も、海外から移転した排出枠も、経済価値は同じくゼロ近くに張り付いたまま。かつては、1トン1000円を優に超える価格で取引されていた排出枠の価値がここまで下がってしまった背景には、圧倒的な買い手の不足がある。

当初、排出枠の制度を設計した政府が、有力な買い手として期待をかけていたのは電力会社だった。1キロワット時の電気をつくるのに排出するCO2量は排出係数として、電力を使う需要家のCO2排出量の計算にも使われる。少しでも係数を良くしようとして、電力マネーが排出枠市場に流入すると期待した。

ところが、東日本大震災の発生で状況は一変する。全国の原子力発電所の停止が続き、燃料費負担が増えるなか、各社とも大幅な赤字に陥る。値上げ申請に踏み切らざるを得なくなった電力会社も多い。顧客に負担を求めていながら、ボランタリーな出費である排出枠の購入を続けるわけにはいかなくなってしまった。

「お墨付き」目当て、供給増加続く

排出枠の仲介事業者も苦慮する。FTカーボン(東京・港)は数万トンの排出枠の在庫を抱えたまま。環境面の配慮が入札条件になっている工事を落札したいゼネコンなどが今の主要な顧客だが「足元を見られている。価格決定の交渉は顧客の声に押されがち」(富士昌孝社長)という。CSR(企業の社会的責任)を目的としたカーボンオフセットの需要も伸びていない。買い手が有利な構図のなか、顧客の「言い値」に近い価格決定になりつつある。

 需要が乏しく、価値がゼロにまで落ちた排出枠。しかし、その供給は不思議と増えている。中小企業の昨年度までのCO2排出削減量を排出枠として認める経済産業省所管の「国内クレジット制度」では、制度終了を前に排出枠の認証量が昨年末までの2.3倍となる150万トン強まで増加している。

国内クレジット制度では排出枠の創出にかかわる審査などにかかる費用が税金でまかなわれる。自らの負担はゼロで、排出枠を作り出すことができる。排出枠に価値はなくても「CO2削減投資をした側からみれば、国の制度で削減量が認定される。『お墨付き』を得ることが大切」(アズビルの福田部長)。税金で排出枠を作る制度のもと、需要がなくても排出枠だけが増えつづける。

国内クレジット制度で生まれた排出枠のうち、償却(使用)されたのは46.8万トン分にとどまり、100万トン以上が在庫として企業の手元に眠る。同時期に並行して存続した環境省所管の排出枠制度でも52.5万トンが作られ、使用されたのは5万トン強。こちらは9割近くが使われず、残ったまま。経産・環境両省は制度を統合し、今年度からも新制度で排出枠の創出を続ける方針だ。

ボランタリーな努力任せは限界

国内排出枠の新規創出には、多額の税金が使われている。経済産業省の国内クレジット制度には11年度は13.4億円、12年度は9.3億円が投じられた。その多くは、中小企業の省エネ投資への補助金ではなく、クレジット制度を運営するための事務局費用や、CO2排出量の削減効果を見極める審査会社に支払われる費用などに消えている。

今年も世界では豪雨や干ばつ、夏場の高温など気候変動が要因とみられる異常気象が続いている。CO2をはじめとする温暖化ガスの排出抑制が世界的な課題であることは変わらぬ事実だ。しかし、排出枠の国内市場を見る限り、誰にも義務を課さぬまま、ボランタリーな努力に任せる前提で、CO2排出に経済的な価値を付けようとした試みが破綻を来しているのは明らかだ。

政府は11月にポーランドで開催される第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)で新たな温暖化ガス削減目標を表明する方針だ。国内での実効性のある削減の仕組み作りには、現行制度の構築にあたり、「キャップ・アンド・トレード」型の仕組みを強硬に拒んだ経済界も、もちろん無縁ではいられない。

(産業部 宇野沢晋一郎)

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