佐賀県人は日本酒大好き 盛り上げ上手の「藩主」
「お客さま1組に1本でお願いします」。昨年12月中旬の週末、佐賀市内の酒店に次々と訪れる客の多くが手にしたのは、富久千代酒造(佐賀県鹿島市)の「鍋島」だ。大吟醸が11年の国際酒類品評会で最優秀賞を獲得し、人気に拍車がかかった。佐賀の日本酒が注目される契機となった立役者といえる。
もともと佐賀や福岡など北部九州は日本酒の生産も消費も多い地域だった。地元の約30の蔵元が加盟する佐賀県酒造組合の古賀醸治会長は「江戸期に佐賀藩主の鍋島直正公が農閑期に余剰米を使った日本酒造りを奨励し、明治期の最盛時にはおよそ700の酒蔵があった」と話す。現在も県内全体に偏りなく酒蔵が立地しており、これは東北や北陸など他の日本酒どころの県と比べても佐賀の特徴だとされる。
北部九州での日本酒の消費動向について、古賀会長は「20年くらい前、安くて飲みやすく、酔いざめが良いとの理由で焼酎が逆転した」とみる。佐賀では「良質な純米酒の醸造を増やし、味にも健康にもこだわった酒造りで一定の支持を保ってきた」と語る。
富久千代酒造のほか、天山酒造(佐賀県小城市)の発泡性日本酒も今年、同じ品評会で受賞するなど、県内には高く評価される酒蔵が多い。最近は蔵元の若い当主や杜氏(とうじ)の活躍でいろいろな味わいの酒が増えている。
佐賀の独特な食文化が、地元に日本酒好きが多いことと密接に関わっているとの見方もある。佐賀の日本酒は、味わいが深くて甘めの「濃醇(のうじゅん)甘口」が伝統とされ、東北などの「淡麗辛口」とは対極をなす。古賀会長は「家でおかずをつまみに酒を飲むのが普通だから、それに合うものが求められた」と説明する。例えば、有明海でとれるクチゾコの甘辛い煮付けや、ムツゴロウのかば焼き、塩気の強いガニ漬けといった濃い味の料理には濃い味が好まれる。
小城市では名産のようかんをさかなに晩酌する習慣もあるそうだ。地元の老舗、村岡総本舗の村岡安広社長によると、「飲酒時にようかんを食べると二日酔いになりにくい」のだという。
「この10年間で佐賀県産の日本酒は間違いなくおいしくなった」。古川康前知事は昨年11月、国政転出に向けて辞職した後の記者会見で自らの県政を振り返り、こう誇ってみせた。
古川前知事の念頭には、自ら主導して県が04年に導入した「原産地呼称管理制度」の成果がある。これは100%県産の原料を使って県内の蔵元が造り、味や香りなどの審査で合格した純米酒などを認定する制度だ。認定期間は1年で、専門家らによる審査会を毎年春と秋に開く。県流通課によると、これまで20回の審査で、純米酒は660本が認定された。県による「お墨付き」が人気を後押しした。
都道府県では初めての「佐賀県日本酒で乾杯を推進する条例」も13年6月に同県で制定された。これを受け、酒造組合は県内の飲食店で来店客が一斉に日本酒で乾杯するイベントを催し、毎回1万人の参加を目指している。県内に日本酒ファンが定着しているのは、こうした自治体の取り組みが功を奏していることもある。
最近は各酒蔵もPRに力を入れ始めており、鹿島市内の6蔵元と観光協会などは歴史的な街並みも生かした「鹿島酒蔵ツーリズム」を12年から開始。大和酒造(佐賀市)は昨年9月、本社内に試飲などが楽しめる現代的な観光施設「ぎゃらりー大和」を開業した。観光客への地酒のアピールで、県外でも佐賀の日本酒人気が一層高まってきている。
(佐賀支局長 田中浩司)