家に潜む危険を点検 安全生活のための整理整頓術
片付けの効果はいろいろある。清潔で気持ちがいいし、探し物に使う時間も省ける。さらに、思わぬ事故が起きるリスクを減らせるメリットも大きい。
「家庭内には想像以上に多くの危険が潜んでいる。特に高齢者と子どもの事故は多い」と、セコムIS研究所の舟生(ふにゅう)岳夫さんは話す。厚生労働省人口動態調査によると、2011年、家庭内の不慮の事故による死亡数は1万6722人。年齢別にみると65歳以上が約8割を占める。死亡原因は風呂場での溺死、窒息、転倒が多い。
一方、0歳から14歳の子どもの死亡数は267人。物を喉に詰まらせて窒息、ライター使用などによる火災、風呂場での溺死が目立つ。
家庭内での事故は、整理整頓することで、ある程度リスクを減らせる。高齢者の転倒を防ぐには、床や通路に滑りやすい物、引っかかりやすい物を置かないことが一番だ。
小さな子どもがいる家庭では、喉に詰まりやすい直径2~3センチの物を散らかしておかないことが大切。ライター、刃物、電池、洗剤、薬など危険が伴う物は、食卓などに無造作に出しておかず、子どもの手の届かない場所に保管するのが基本だ。
災害危機管理アドバイザーの和田隆昌さんは「大地震のとき、逃げ遅れやけがのリスクを減らすためにも、整理整頓は大切」と話す。いざ逃げようとしたとき床におもちゃなどが散らかっていると、踏んでけがをすることもある。
避難経路になる廊下やドア、玄関に物が積んであったり、背の高い本棚などが置いてあったりすると、倒れてきてドアを塞いだり下敷きになる危険がある。
「大地震では重いタンスや家電も飛んでくる。ガラスは飛散する。そう心得て物の置き場所を見直し、さらに転倒防止や飛散防止の対策を講じてほしい」(和田さん)
では、日常生活に潜む危険を見つけ出し、整理や収納に生かすにはどうすればいいのか。和田さんは「家庭ごとに危険は異なる。家の中を見回し、これは寝ている頭に落ちてくるかもしれない、などと、最悪の事態を想像したい。そうすれば何をすべきかが見えてくる」と話す。
舟生さんは「"ヒヤリ・ハット"の経験を生かしてほしい」と助言する。ヒヤリ・ハットとは、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300件の小さな出来事(ヒヤリ・ハット)があるという法則だ。
「小さな事故でよかった、で済ませず、次は大事故につながるかもしれないと予測して、手を打ってほしい」(舟生さん)。子どもも高齢者も日々、状態が変化していると意識して、よく観察したい。
整理収納アドバイザーのすはらひろこさんは「手に取りやすくて便利だから、などと習慣になってしまった物の配置を、見直すべきではないか」と話す。
収納スタイルについては「海外のインテリアに憧れる気持ちはわかるが、日本は地震国。すてきと危険を同時に考えるときが来ている」。例えば天井まで壁面収納をするなら、物が落ちても誰もいない場所を選んで設置するようにしたい。「廊下に置いた棚はどうしても必要か。不用品を捨てれば、押し入れにスペースを作れるのでは」などと自問自答し、物の全体量を減らすことも重要だ。
「面倒な片付けも、安全のためと考えるとやる気が出るし、家族の協力も得やすい。リストを作り、小さなことから始めるのが長続きのコツ」とすはらさんは助言する。
(ライター 奈良 貴子)
[日経プラスワン2013年2月23日付]