宮崎発、着ぐるみ工房 ゆるキャラ誕生物語
九州の霧島連山を眺めながら毎朝ウオーキングする、きれい好きな女の子――。そんなイメージのキャラクター「こすモ~」ちゃんが宮崎県小林市に誕生した。特産の牛と、観光名所のコスモスをデザインした市の「ゆるキャラ」。観光客を呼び込み、街を盛り上げるのがお仕事だ。3月末、牧場で開いた桜祭りがデビュー初日。首に飾ったピンクの花びらをゆらし、市民の待つステージに元気いっぱい駆けだした。
こすモ~ちゃんが生まれたのは宮崎市内の工房「キグルミビズ」。これまで世に送り出した着ぐるみは1500体におよぶ。1つの着ぐるみは造形、縫製、生地貼り、靴作りの各チームからスタッフが集まり、およそ1カ月で作り上げる。中でも型紙作りには独自のノウハウがあり、「外部にはお見せできない」という秘密技。もとは舞台美術などを作る会社だったが、6年前から着ぐるみ作りを始めると「ゆるキャラブーム」とともに一気に注文が増えた。
今では注文に追いつかないほど忙しいのが会社の悩みの種。従業員30人は全員女性。仕事と家庭が両立できるよう就業時間を柔軟にしてママさんスタッフを支援、チームワークで乗り切っている。「キャラクターの向こうの笑顔のため」と、120%の力で取り組む工場長の加納ひろみさん(52)は若いスタッフにも期待をかける。「どうやったらかわいくなるか……」。仕上げに奮闘する入社4年目の黒木有紀さん(21)は加納さんたちと知恵を絞りながら生みの苦しみを乗り越える。
全国的な人気者、熊本県の「くまモン」もキグルミビズが製作した。造形を担当した黒木さんにとって、思い入れが深いキャラクターのひとつだ。3月中旬、同県内で開かれた「くまモン誕生祭」には2日間で約4万5000人が来場した。「おなかがポヨポヨでかわいい」。軽快な動きで登場したくまモンに、跳び上がって喜ぶ黒沢姫佳ちゃん(4)。一緒に来たおばあちゃんは「いつもテレビの前でくまモン体操をしています」と、くまモンは世代を超えて愛されている。
デビューまであと2週間。こすモ~ちゃんがようやく完成した。キグルミビズではキャラクターが完成すると、スタッフ全員が見守って写真を撮ることになっている。それはかわいい我が子を送り出す儀式でもあるという。「各工程のスタッフが作ったパーツはモノですが、集まって1つになり立ち上がった瞬間、生き物に変わるのです」「その存在はファンの人たちが『中に人などいない』と信じ込むほどに重い」と加納さんは話す。
「こすモ~ちゃん!」。待ちに待ったデビューの日。客席からの声援に、ちゃめっ気たっぷりの動きで応える。くるくる回ったり、跳びはねたりして会場を歩き回った。「わたしもぎゅっとしてー」と抱きつく子どもたち。どうやら反応は上々のようだ。2年越しの計画が実った小林市商工観光課の宮田陽介さん(32)は動きやすいデザインにも満足した様子。「くまモンに追いつけ追い越せで売り込んでいきたい」と誕生を喜んだ。
楽しい雰囲気でイベントは無事に終わった。こすモ~ちゃんのデビューが気になって会場に様子を見に来た黒木さん。「喜んでくれて良かった。こすモ~ちゃんはきっといけるはず」と自信を深めた。「くまモンみたいに全国的に有名になることもあるけど、それぞれの地域で愛されればいいな」。キャラクターをかわいがる人も、生み出す側も心が弾むゆるキャラ。ブームはまだまだ冷めそうにない。