海上警備強化で巡視艇10隻を供与 日比首脳会談
中国けん制狙い
【マニラ=川手伊織】フィリピン訪問中の安倍晋三首相は27日、同国大統領府でアキノ大統領と会談した。首相は巡視艇10隻の供与を表明した。政府開発援助(ODA)の円借款を活用し、海上警備能力の向上を促す。同国と南シナ海のスカボロー礁の領有権を争う中国をけん制する狙い。災害復旧に特化した円借款の融資枠を設ける考えも打ち出した。
首相は会談後の大統領との共同記者会見で「日本にとって基本的価値観と多くの戦略的利益を共有する戦略的パートナーとの関係を強化する」と語った。対フィリピン外交で「4つのイニシアチブ」を提唱。(1)インフラや投資環境を整える経済分野での協力(2)海洋分野での協力(3)ミンダナオ和平プロセス支援の強化(4)人的交流の促進――の4分野で構想を示した。
巡視艇の供与は首相の「地球儀を俯瞰(ふかん)するような戦略的外交」の一環だ。海洋進出を強める中国に対する懸念や自由、民主主義などの価値観を共有する国々と中国包囲網を築く。
フィリピンは12の管区を設けて海上を警備しているが、外洋まで警備できる35メートル級の巡視艇は4隻しか稼働していないという。日本が供与する10隻を合わせれば、管区ごとに1隻は配備できる。2014年から3年程度かけて供与する。
各管区で外洋に出た巡視艇と順次情報をやりとりできるよう、通信システムの向上も支援する。海洋分野では、共同訓練を視野に入れた防衛当局や海上保安機関どうしの協力を推進することを確認した。船舶事故が多い内航海運の安全規制を強化するため、日本から専門家を送り込むことも提案したとみられる。
フィリピン政府が反政府勢力との最終和平合意をめざすミンダナオ地方向けに支援を強化する考えも伝えた。ミンダナオの和平がアジアの平和と繁栄に不可欠との認識を共有。紛争地域での学校や診療所など社会基盤の建設や、農業や鉱工業など地場産業の育成を後押しする。
経済分野では、災害復旧に活用できる円借款も設ける。資金枠は100億円規模になる見通し。災害が起きた後に道路や港湾など主要なインフラを早期に再建するための資金を提供する。
あらかじめ災害発生後の復旧計画をつくり、それに基づいて支援を求めれば、迅速に資金を融通する仕組みにする。インフラ新設に偏っていた円借款の用途を広げ、新興国のニーズに応える。
首相はアキノ大統領に対して、投資環境の整備も働き掛けた。年金など社会保険料の二重払いと掛け捨てを防ぐ社会保障協定の締結に向けて正式交渉に入ることも確認。日本が外貨準備として保有する米ドルを機動的に融通できるよう通貨交換協定の拡充も提案したもようだ。
マニラ首都圏の交通渋滞を解消する道路建設など大都市圏のインフラ整備も議論した。首相は日本企業の技術やノウハウの活用を訴えた。
人的交流では、両国間の航空定期便を増やすよう呼びかけた。首相は27日午後、マニラで東南アジア歴訪を総括する記者会見を開き、同日夜に帰国する予定。