トヨタ社長「将来にツケ回さないよう消費増税を」
検討会合3日目
政府は28日昼、消費増税の影響を検証する集中点検会合を開いた。産業をテーマに有識者が議論した。会合後、出席した有識者が記者団の取材に応じた。主な発言は以下の通り。(肩書の後の○は従来案に賛成、△は引き上げ方法の変更が望ましい、×は反対。発言は一部補っている)
豊田章男・トヨタ自動車社長、日本自動車工業会会長
○
消費税を上げていくということに関しては賛成。次世代につけを回さないように、安倍総理がしっかりとご決断をされたことに関してはしっかり自動車業界がサポートする。
(消費税率の上げ幅や時期については)私が言ったところで仕様がない。(消費税増税をしないと)全体的に将来の世代につけを回すことにつながるので、消費税を上げていく方法については分からないが、上げていくことには賛成。ただし、自動車ユーザーに対する公平は考慮いただきたいということと、やはり国自体が持続的に成長できるようなカタチにもっていっていただきたいというお願いはしている。
(消費税を上げる際は)自動車だけにかかっている車体課税の廃止を同時にご検討いただきたいと申し上げた。そうでないと自動車ユーザーへの負担があがるので、どんどん保有期間が長くなっていく。結果、市場が落ち込む。ひいては日本での国内生産が維持できないという、まずいサイクルに入っていく。国自体が持続的成長できるようなご決断をお願いしたいと申し上げた。これは決して自動車業界のことを申し上げているわけではなくて、消費税というのは一般国民にかかってくると思う。そのなかで自動車ユーザーだけが過分、過度な不公平さがあることだけはご理解いただいたと思う。
岡本圀衛・経済同友会副代表幹事
○
税制抜本改革法が苦難のなかで(国会を)通ったということもあり、その中にきちんと書いてある14年4月の8%、15年10月の10%への引き上げについては計画通り、粛々と引き上げるべきであると、賛成をした。賛成の根拠は3つある。1つ目は持続的な経済成長を図るために必要だということ。2つ目は先送りにした場合のリスクが極めて大きいこと。3つ目は税制・財政においては様々な構造的な課題があり、これらを解決していくための橋頭堡(きょうとうほ)になるということだ。
(現在の制度は)若者世代のツケがどんどん増えている状況。対国内総生産(GDP)で200%を超える国の借金、財政的に厳しい状況だが、今でもどんどん増えている。今の若者が少しでも将来楽になるように、現役の我々がみんなで痛みを分け合っていかなければならない。消費増税は国民全体が将来の人のためにやろうよ、というのが一番大きな話。
(1%ずつの引き上げは)3つの点で課題がある。一つは歳入が大きく減り、財政再建が後ろ倒しになってしまう。一度消費税を変えるだけでもシステム面や事務面、値付けなど色々な意味合いで大変。少しでも少ない回数にしてほしいという話。もう一つは価格転嫁。1%ずつだと金額の小さいところは転嫁できない。企業は1%ずつについては難しいという考え方が多い。
所得・給料がそんなに伸びていないときに(予定通り引き上げると)景気を冷やしてしまうとの話があるが、政府や日銀の発表した数値だと、14年度の名目GDPは政府の場合3%を超え、実質GDPも1%。今年よりも来年の方が数値は下がるが、引き続きプラス。消費増税を組み込んでもプラスと言われている。景気の腰折れが目に見えているならばこのことは考えなければならないが、景気が上向いていることを考えると、粛々と進めていく方がよいのではないか。
(増税時の景気対策としては)少なくとも低所得者対策が必要。前回も対応したが、簡易な給付策などはやっていかなければならないのでは。他に軽減税率の問題があるが、同友会としては、10%までは単一税率で行くべきではないかと思っている。
岡村正・日本商工会議所会頭
○
社会保障をしっかりしたものにするには、法律の通りしっかりやるべきとの話をした。私どもはかつては消費税増税に反対していた。景気に悪影響し転嫁ができないことが理由だが、この5年間議論を重ねた。社会保障が十分に今の財政ではうまく回らないことがはっきりしてきたので、その原資としての消費税はどうかということで、延べ100回くらい全国の人たちと議論をして、10%を上限に消費税の引き上げはやむをえないということになった。
ただ複数税率は非常に事務負担が大きくなり、税収そのものが減るということで断固反対したい。それと消費税を1%ずつ上げる議論があるが、複数税率と同じように事務負担が大きくなるということで、小さい企業には厳しい状況になるとお話しした。
(消費増税を実施した場合)消費者に対するマイナスの要因が働くのは事実。ただ国民も社会保障をしっかり行うには消費税アップやむなしという気持ちになっていると我々は理解をしている。少なくとも商工会議所の中では数年間の議論で、100対0というわけではないが、大多数の方がそういう考え方を持つようになってきている。(消費税引き上げは)このチャンスを逃すといつできるかわからなくなる。
岩沙弘道・三井不動産代表取締役会長、不動産協会会長
○
(消費税率を毎年1%ずつ引き上げるなどの変更は)現場で実際の手続きとか、お客様への説明、価格のあり方、いろいろ混乱をもたらすのではないか。我々の業界としては、今の仕組みでいっていただきたい。
むしろ成長戦略をしっかりスピード感をもって実現させていくことによって、強い経済を取り戻していく(方がよい)。今は輸出や消費は比較的堅調なので、(これを受けて)日本の企業が積極的に国内での投資を再開するだけで生産効率や競争力が高まっていく。さらに円安もあって、国内の立地がはたして不利なのかということについて、企業も考え直してきているところ。企業が自信をもって世界戦略を展開できるような設備投資が再開され、企業の雇用が増えて、できればベースアップもするという好循環を描くことが今一番大事だ。(消費増税の)議論は早めに10月の上旬には決着がつくと思うので、(その後は)むしろ成長戦略をどう組み立てていくか。これが大事だ。
住宅に対するニーズがポジティブになってきている。消費税ということで消費者の住宅に対する考え方が左右されることはないと思う。(住宅業界では)リーマン・ショック前に急激に需要が増えた。それをにらんで価格も上がったため、急いで供給して、その後の反動減で過剰な在庫を抱え、処理するのに関連業界は大変苦労した。(その経験を踏まえて)実需にあった形で、在庫管理しながら、供給がされるという構造になっているので、需給動向は安定的になっている。
(増税の反動減は)今回は限定的。たしかに(増税直後の)14年の4~6月期、15年の10~12月期は多少あるかもしれない。ただ、15年については成長戦略がどれだけ実感できるかが、むしろ大きい。14年の4~6月期はきちっとした手当てを重ねているので我々業界としては不安感は持っていない。
樋口武男・大和ハウス工業会長、住宅生産団体連合会長
○
(来年4月に消費税を引き上げることについては)賛成だ。(住宅市場では消費増税によって)ずいぶん駆け込み需要がでている。8%に上げる件については、住宅ローン減税の拡大や給付措置も決まり、それで結構だと思うと(申し上げた)。ただ、翌年引き続き10%に上がる際には、景気動向をよくにらむと同時に財政・金融・税制等をよく勘案して配慮してもらいたいとお願いした。
(駆け込み需要の反動減を抑えるための対策などについては)長期優良住宅になればローン減税の幅もさらに広がるようになっているなど、もうある程度の答えがでている。問題はこの10年間ほど、(住宅の)1次取得者の年齢層である30代前後の人の年収が増えていないということだ。景気が本格的によくなれば給料もあがってくるだろうし、そういうことも含めて総合的に判断をお願いしたいということを言った。
(消費増税後の反動減は)分からないが、過去の(増税時の)例から言うと、20万戸くらい減っている。ただ、成長戦略がうまく軌道に乗れば収入も増えるから、負担を負わなくてすむだろう。今回は給付措置というはじめての制度が導入されたので、その面も働いているし、ローン減税の拡大もされた。だから今までの2回のような大幅な減はないので
はないかなと思う。それよりも景気が順調に成長戦略に乗れば、また安定した住宅着工戸数が推移できるのではないかという考えのもとに意見を言った。
(上げなかった場合は)財政が大変だ。日本の財政は1000兆円も借金がある。財政の改善は国際協約みたいなもの。(出来なければ)国に対する不信感が生まれ国債価格が下がり、金利が上がる。金利が上がることの方が、(消費増税よりも)もっと大きな足かせになると思う。
清水信次・日本チェーンストア協会会長
―(賛否表明せず)
消費増税に賛成も反対もない。総理の決定に総力を挙げて国民が協力すべきだ。そうしなければアメリカや中国、ロシアやアジア諸国との付き合いが出来ない。自分のこと、利害、業界、企業、それでものを考えていたら間違う。世界を相手に日本はどうあるべきかを考えるべきだ。日本の国民はこれから人口が減る。その過程で国は大変に大きな責任を負う。それをどうして果たすかということ。国を挙げて政治も行政も、我々国民も、政官民一体になって対応していかねばならない。消費税の税率の問題とか、上げ方の方法とか2回に分けるとか1%とか、そんなのは問題ではない。もっと大きい問題がある。
現在日本の消費税は最低。一方、社会保障のレベルは日本は世界最高のレベルにある。だから、国民も業界も応分の協力をするのが、我々の責任であり義務である。
(消費増税後の)還元セールに関しては、法律で禁止されている。だから我々の業界がお客様や消費者の生活防衛に少しでもお役に立つように、そうでない方法で出来る限り奉仕をしていく。
(消費税率を)上げた場合には、多少上げる前の駆け込み需要とか、終わった後の特に耐久資材、家屋とか大きな耐久資材に関してはアップダウンはあるだろうが、大体普通1年で収束する。2年はかからない。97年の消費税率引き上げ時に、景気が悪くなった、税収が減ったというのは、正しくない。
個人年収200万以下の方、標準世帯年収400万以下の方に対しては軽減の方法を(考えるべきだ)。還付するなど、アメリカでもクーポン出したり政府が支払ったりなど格差問題への対応をしている。こうした低所得者に対する配慮・救済策については今日も話した。
鶴田欣也・全国中小企業団体中央会会長
○
(来年4月から消費増税に)8~9割は賛成している。ただ全面的に4月に上げてもいいということではなく、その前座として景気回復をお願いしたい。税制面で配慮が出来るものがあればそういうものは率先して配慮していただければよりありがたい。中小企業に(景気回復は)浸透してはいない。だから早く中小企業に行き届くような景気対策をしてほしい。アベノミクスの成長戦略はどうしてもやってほしい。転嫁不足や下請けいじめの懸念はある。企業は力関係だから力の強いところがどうしても値上げに難色を示されるとそう簡単にいけないというのが実態だと思う。
小松万希子・小松ばね工業社長
○
(アベノミクスの)3本の矢が放たれて、円安・株高の効果が出ているのは大企業の輸出産業が中心。中小企業にはなかなか恩恵が来ていない。ただ、日本の財政を考えた場合は(消費税を)上げざるを得ない。それは仕方がないということで、一時的な痛みを伴うことを覚悟で(従来通りの消費税引き上げに)賛成ということを述べさせていただいた。
(仮に消費税を毎年)1%ずつ上げると、システムや書類の変更などにかなり負担がかかる。毎年税率が変わる度に人件費や経費がかかる。それはちょっと賛成できないと思っている。(増税を延期するという案も)本当は先延ばししている場合ではない。
中小企業はどこもそうだと思うが、増税したからといってすぐに賃上げということはできないというのがほとんどだと思う。企業対企業は、価格に対して消費税分を上乗せして請求書を出すため、対応していけば大丈夫ではないかと思う。しかし、賃金を上げないと、社員が増税分を負担しなければならないという心配はある。企業としても(賃金を上げられるように)努力して、市場を拡大し、売り上げを上げていかないといけないと思っている。
これからはやはり中小企業も海外に積極的に市場を見つけていかなくてはいけない。その際に、中小企業の多くは、海外の取引には不慣れなので、そういったところをサポートする政策を出してほしい。補助金なども出していただいているが、バラマキ的なものでは意味がない。補助金も税金なので、そうしたことにも配慮して政策を出してほしい。
石沢義文・全国商工会連合会会長
△
小規模企業への影響が大きいので、基本的に消費税の引き上げには反対。しかしそうかと言って、もうこの選択肢しかないのでやむを得ない。しかも国会を通っているわけだから。条件付きで賛成する。
予定通り上げることには率も時期も含めて反対。1回にまとめて引き上げることも含めて、慎重に検討すべきだ。2回ボディーブローを食らうと2度目はとどめを刺すことになる。むしろ1回にすればゴングに救われるということもある。そういう意味では、少し遅らせるということもあるのではないか。現状ありきではなしに、いろんな声を聞いて、1%ずつ上げるのもひとつの手だし、率を下げる意見もある。国会で決まったから(引き上げるということについては)どうすることもできないが、やり方とか率だとか時期に皆の意見を聞いて慎重に検討してほしい。
価格転嫁をできない小規模企業の苦しみを国民に訴えていきたい。そうすることによって企業が価格転嫁できる環境が整うかもしれない。引き上げることは仕方ないにしても、引き上げる場合には、価格転嫁できる仕組みをつくってもらいたい。
本来、消費税は消費者が払うべきもの。それをお客さんを失いたくないがために、(中小が)身代わりに消費税を納めているケースもある。そんなことでは小規模企業は生きていけないことに配慮してほしい。我々の要望通りきちんと価格転嫁できる仕組みが実現すれば、賛成できる。
ただ100%価格転嫁できる仕組みを作るなんて非常に難しい。ヨーロッパは長い歴史があるから100%転嫁できるが、日本の現状ではあり得ない。エール大の浜田さんが1%ずつと言っておられるので、最終的にはそういう落としどころもあるのかなぁという気はするが、それでは非常に煩雑になって、商工会議所としては絶対反対だ。条件は提示したが、非常に難しい条件が山積しているということだ。