春秋
「観光宮崎の父」と呼ばれるのが大正の末にバス会社の宮崎交通を創業した岩切章太郎だ。遊覧バスを始め、日南海岸にサボテン公園やフェニックスの並木をつくって、新婚旅行客を集めた。今でいえば「地方創生」。原点は少年時代の、新渡戸稲造との出会いだった。
▼農学者、教育者として有名になっていた新渡戸が宮崎を講演に訪れ、岩切少年は学校の先生に許しをもらって聞きに行った。頭に焼きついた話があった。「豆腐は非常に良いたんぱく源だ。日本人がいい体格になるには、もっと豆腐を食べないといけない。私は大学者になるか豆腐屋になるか、一生懸命考えたことがある」
▼あらゆる仕事に意義がある。東京に出ていくばかりが能ではない。地方にいても十分に生きがいを見つけられると思うようになったのは豆腐の話からだったと、岩切は後に振り返っている。遊覧バスの事業ではガイドの説明用の原稿を書き、バスの出発を自分も手を振って見送った。社長自らサービス向上の先頭に立った。
▼政府が地方創生に向けた総合戦略と長期ビジョンの骨子案をまとめた。ビッグデータを活用した地域産業の育成や地方移住の推進などの項目が並ぶが、具体策に乏しい。肝心なのは自分は地方で頑張りたいという人を、どうやって増やしていくかだろう。子供のころの出会いや学びも大事だと、観光宮崎の父は教えている。