「獺祭」と富士通がコラボ 酒米不足に挑む
■「獺祭」の酒蔵へ
山口県岩国市の中心部から車で40分ほど。旭酒造は山里深い地にある造り酒屋だ。酒蔵では収穫されたばかりの山田錦を使って、「獺祭」の仕込みが始まっていた。

獺祭はコメと米麹(こめこうじ)、水だけで造る「純米大吟醸」だ。その味が評価され、店頭では品薄状態が続いている。さらに海外展開も積極的に手掛ける。
約30年前に酒蔵を引き継いだ桜井博志社長は「あまりにも経営状況が悪すぎて杜氏(とうじ)に逃げられた」と振り返る。当時、売上高は1億円に満たなかったが、2014年9月期には約46億円にまで伸びた。
杜氏がいない旭酒造では温度管理や仕込みのタイミングなどのデータを蓄積し、酒造りにいかしてきた。データを活用して通年で酒造りができる体制も整え、業績向上につなげてきた。
■売れるのに造れない
同社は受注状況から強気の需要見通しを立てている。「この1年で30億円くらいの売り上げを逃したのではないか」と桜井社長は残念がる。

造りたくても造れなかった原因は原料となる山田錦を十分に確保できなかったから。獺祭が使う酒米は山田錦だけだが、山田錦は栽培が特に難しい品種の一つとされている。
背丈が伸びやすく、倒伏前に刈り取るタイミングの見極めなどが必要という。さらに生産者が限られていることや、酒米が13年度まで生産調整の対象だったこともあり「もっと欲しいと言っても、仕入れを増やすことがすぐにはできない状況だった」(同)。
■山田錦づくりをICTが支援

山田錦をいかに安定的に調達するか。そんな時、巡り合ったのが富士通の農業向けクラウドシステム「Akisai」だった。酒造りでデータを活用してきた経験を、酒米の調達にもつなげることになった。
両社は6月の作付け前に栽培を委託している農家の水田にセンサーなどを設置した。気温や湿度、土壌の温度などを1時間ごとに自動収集する。
また定点観測カメラを置き、水田の様子を毎日撮影している。日々変わりゆくデータや画像をクラウドシステムの中に蓄積する。栽培農家は自宅のパソコンやタブレットなどを使ってデータを自由に見ることができる。
「虫が出たとか、水が漏れたとか、ちょっと気になった情報を入力することもできる」(富士通Akisaiビジネス部の山崎富弘氏)と言う。
■コメ栽培の「教科書」に

生産者にとっては「例えば試験場の専門家にデータや画像を見てもらい、『もっと肥料が必要』などのアドバイスを受けることもできる」(山口市の農家・山根正之さん)。また判断が難しいとされる山田錦の刈り入れ時期を蓄積データから予想することもできるという。
さらに栽培に不慣れな人にとっての「教科書」とすることも狙いの一つだ。「就農意欲を持つ若者に言葉ではなかなか伝わらない。操作に慣れているパソコンやスマホで伝えるのが早い」(同)と話す。
富士通との契約額は非公表だが、旭酒造と農家が必要な経費を負担する。旭酒造はクラウドシステムを活用することで栽培が難しい山田錦を生産する農家を増やし、安定的な調達につなげたい考えだ。短期間では効果が出にくいとして、まずは5年程度の試験的な運用を計画している。
■「ICT×農業」が秘める可能性
地方の酒造会社だけにとどまらず、ICTは若い担い手不足に悩む日本の農業の救世主になれるかもしれない。この取り組みがどれだけの稲穂を実らせてくれるのか、酒造会社だけではなく農業関係者からの関心も高い。
(映像報道部 近藤康介)
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